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2021年04月20日
  • プレスリリース
脳の免疫細胞ミクログリア温度を感じて動くメカニズムを解明

ミクログリアは中枢神経にあるグリア細胞の一つで、中枢の免疫担当細胞として知られています。ミクログリアが温度依存的に活動することは知られていましたが、そのメカニズムは分かっていません。今回、自然科学研究機構 生理学研究所/生命創成探究センターの富永真琴教授は、西本れい岡山大学病院集中治療部医員(現岡山大学医学部客員研究員)、鍋倉淳一生理学研究所所長、Derouiche Sandra元特任助教、江藤 圭助教(現北里大学医学部講師)らとの共同研究で、脳のミクログリアがTRPV4と呼ばれるイオンチャネルによって温度を感じて動くことをマウスにおいて明らかにしました。脳内の温度を制御したりTRPV4の活性化剤を使用したりすることでミクログリアの運動をコントロールして脳のダメージからの回復を早めることができると推定されます。

本研究結果は、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)のオンライン版が2021年4月19日の週に掲載されます。(日本時間2021年4月20日午前4時解禁)

脳の免疫細胞ミクログリアが温度を感じて動くメカニズムを解明

ポイント

  • マウスの脳内ミクログリアが温度依存的に運動することを発見しました。
  • マウスの脳内ミクログリアは、温度感受性TRPV4チャネルを使って温度を感知してミクログリアの運動増強につなげていることが分かりました。

研究の背景

我々の脳内で、ミクログリアは細長い突起を有し、それをダイナミックに動かしてシナプスや神経軸索等に接触させ、その機能を監視・調節していることが徐々に明らかになっています。また、病巣部等へ移動したり、ダメージを受けた細胞を貪食したり、液性因子の産生放出を引き起こしたりすることも知られています。中枢神経系疾患のメカニズムにも大きな役割を有しており、治療薬開発における有望なターゲットとして注目されています。ミクログリアが移動したり突起を動かしたりする現象に温度依存性があることは知られていましたが、そのメカニズムは分かっていませんでした。

研究の内容

研究グループはまず初めに、マウスの脳からミクログリアを採取して培養し、培養しながら顕微鏡でミクログリアの移動軌跡をトレースするシステムを開発しました(図1)。33度(低温)、37度(正常体温)、40度(発熱時の体温)の3つの温度でミクログリアの移動を観察すると、温度が高くなるほどミクログリアの移動距離が長くなることが分かりました(図1, 2)。

図1 マウスの脳から単離したミクログリアの移動解析と温度依存性
赤、水色、青で示したミクログリアが1時間57分後(左下)には大きく動いていることがわかります。色のついた線はそれぞれのミクログリアの移動の軌跡を示しています。
33度、37度、40度でのミクログリアの軌跡を細胞毎に別の色で示しました(右)。温度を上げると移動距離(2時間)が大きくなるのが分かります。動画はこちら

マウスの脳内ミクログリアにどのような温度感知分子が発現しているかを調べたところ、温度感受性TRPチャネルのうち、温かい温度を感知するTRPV4, TRPM2, TRPM4の遺伝子が発現していることがわかり、それらの機能も細胞内Ca2+濃度変化の測定やイオンチャネル電流測定で確認できました。薬理学的な実験で、TRPV4とTRPM2が重要らしいことが分かりました。
そこで、野生型マウスとTRPM2欠損マウス、TRPV4欠損マウスの脳から調整したミクログリアを用いて温度依存的な運動を観察したところ、37度から40度への温度上昇に伴うミクログリア移動距離の増大がTRPV4欠損ミクログリアで消失していることがわかり、TRPV4が温度依存的なミクログリアの運動に強く関わっていることが分かりました(図2)。

図2 単離したマウスの脳内ミクログリアの温度依存性運動とTRPV4
野生型ミクログリアの周囲温度を33度から37度、40度と上昇させると移動距離の増大が観察されますが、TRPV4欠損ミクログリアでは37度から40度に温度上昇したときの移動距離の増大がなくなっています。

ミクログリアを蛍光で観察できるマウスを作成し、頭蓋骨に穴を開けて生きた状態で脳の温度を変化させ、二光子顕微鏡を用いて脳内のミクログリアの動きを観察しました(図3)。すると、脳内ミクログリアでは、培養ミクログリアで見られたような温度依存的な移動は観察されませんでしたが、突起の動きに変化があることが分かりました。37度から32度に下げると突起の動きが小さくなり、また37度に上げると活発に突起が動くようになりました。また、LPSという細菌の膜にある物質を投与して脳内炎症を模倣する状態を作ると温度依存的なミクログリアの突起の運動はより強くなりました。しかし、この温度依存的なミクログリアの突起の運動変化はTRPV4欠損マウスでは起こりませんでした(図3)。

図3 生きたマウスの脳でのミクログリア突起の移動距離の温度依存性とTRPV4
ミクログリアを蛍光標識したマウスの生きた脳で、二光子顕微鏡を用いて脳内ミクログリアの運動を観察し、温度を37度(1時間)、32度(1時間)、37度(1時間)と変化させました(上)。
野生型マウスでは32度に温度を下げると突起の移動距離が小さくなり、37度にすると大きくなりました。LPSを投与して脳内炎症を模倣すると、温度依存性の移動距離の変化はさらに大きくなりました。しかし、TRPV4欠損マウスでは、コントロールでもLPS投与でも、温度依存的な突起の移動距離の変化は観察されませんでした(下)。

研究の成果

 以上のことから、マウスの脳内のミクログリアは温度感受性TRPV4チャネルを使って脳内の温度を感知して運動し、神経の機能を監視・調節していると考えられます。脳のダメージで脳内温度が上昇するとミクログリアが活発に機能するようになって、そのダメージからの回復を早めているのではないかと推定されます。TRPV4が薬剤開発の標的になるものと思われます。

この研究の社会的意義

今回の研究から、マウスにおいて脳内のミクログリアが温度感受性TRPV4チャネルを使って脳内温度を感知して運動につなげていることが分かりました。脳内温度を変化させたり、TRPV4制御薬を使用させたりすることでミクログリアの機能を制御して脳ダメージの回復をもたらすことができ、新たな治療標的になるものと期待されます。

研究助成

本研究は文部科学省科学研究費補助金の補助を受けて行われました。

論文情報

掲載誌:
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)
オンライン版:日本時間2021年4月20日午前4時解禁

論文タイトル:
Thermosensitive TRPV4 channels mediate temperature-dependent microglia movement.

著者:
Rei Nishimoto, Sandra Derouiche, Kei Eto, Aykut Deveci, Makiko Kashio, Yoshitaka Kimori, Yoshikazu Matsuoka, Hiroshi Morimatsu, Junichi Nabekura, Makoto Tominaga

本件に関するお問い合わせ先

研究について

生理学研究所 細胞生理研究部門
生命創成探究センター 温度生物学研究グループ
教授 富永真琴 (とみなが まこと)
Tel: 0564-59-5286   FAX: 0564-59-5285
email: tominaga_at_nips.ac.jp

※_at_は@にご変更ください。

広報について

生理学研究所 研究力強化戦略室
TEL: 0564-55-7722、FAX: 0564-55-7721
email: pub-adm_at_nips.ac.jp

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