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2022年03月22日
  • プレスリリース
国内で採取された巨大ウイルス一見非効率的な形成過程

自然科学研究機構生命創成探究センター/生理学研究所の村田和義特任教授の研究グループは、東京理科大学教養教育研究院 神楽坂キャンパス教養部の武村政春教授と共同で、国内で採取された巨大ウイルスであるメドゥーサウイルスが、一見非効率的なウイルス形成過程を示すことを電子顕微鏡による解析から明らかにしました。

本研究成果は、2022年3月17日に、米国の国際学術誌「Journal of Virology」にオンライン先行公開されました。

国内で採取された巨大ウイルスの一見非効率的な形成過程

発表のポイント

  1. 多くのウイルス粒子は宿主の中に「ウイルス工場」を形成し、効率的にウイルスの複製を行いますが、メドゥーサウイルスは「ウイルス工場」を形成しません。これまで、メドゥーサウイルスが、どこでウイルスの殻(中空粒子)を作り、どのようにDNAを取り込むのかは不明でした。
  2. 実験室でアメーバを使ってメドゥーサウイルスを増殖させたところ、メドゥーサウイルスの段階的な形成過程を表す4種類の粒子(DNAが取り込まれた感染性のウイルス粒子、DNAが取り込まれていない中空の粒子、そしてそれぞれの中間的な粒子)すべてが、アメーバからそのままの形で放出されることが明らかになりました。
  3. メドゥーサウイルス感染アメーバの電子顕微鏡観察から、DNAを含む粒子が、アメーバの核の近くで特に多く見られたことから、メドゥーサウイルスは、アメーバの細胞内に大量に中空粒子を合成し、核のそばにいる一部の中空粒子のみが、核からのウイルスDNAを取り込み、DNAを取り込めず無駄になった粒子も合わせて細胞外に放出されると考えられました。
  4. 効率的に増殖を行う他のウイルスと違い、大量に中空粒子を合成し、一部の粒子のみがDNAを取り込むという、メドゥーサウイルスの一見非効率的なウイルス粒子の形成過程は、これまでに例がなく、新しいウイルスの増殖戦略を表していることが推察されます。

研究の背景

ウイルス粒子が宿主の細胞の中でどのようにして形成されていくのかについては、あまりよくわかっていません。それは、ウイルスが細胞に比べて非常に小さいためです。今世紀になって発見された巨大ウイルスは、小型のバクテリア(約0.2 µm)を超える大きさを持つため、その形成過程の研究が一挙に進みました。これまでに発見された多くの巨大ウイルスは、感染後、宿主の細胞内に「ウイルス工場」と呼ばれる構造物を形成し、宿主とは独立にその中ですべてのウイルスの複製が行われます。これに対して、メドゥーサウイルスは、「ウイルス工場」を宿主内に形成しないことが分かっていました。蛍光ラベルを用いた研究から、メドゥーサウイルスのDNAは、宿主の核内で複製された後、細胞質に出てくることがわかっています。しかし、どこでウイルスの殻が作られて、どのようにこれらのDNAを取り込んで完全な粒子として放出されるのかは不明でした。本研究では、宿主外に放出された粒子の解析と、宿主内における感染後の時間を追った解析から、メドゥーサウイルスの新たな形成過程を明らかにすることができました。

研究成果

実験室でアメーバを用いてメドゥーサウイルスを増殖させ、その培養上清をクライオ電子顕微鏡注1で調べたところ、感染性のウイルス粒子に加えて、中空の粒子、そしてそれぞれの中間的な粒子、合わせて4種類の粒子がこれに含まれていることがわかりました(図1)。メドゥーサウイルスをアメーバに感染させ、メドゥーサウイルスを複製中のアメーバを化学固定し、電子顕微鏡で観察すると、これら4種類の粒子を細胞内に確認することができました(図2)。そこで、数時間おきにアメーバを化学固定して電子顕微鏡で詳細に観察した結果、この4種類の粒子はメドゥーサウイルスが形成される各過程を表していることがわかりました。まず、ウイルスDNA以外のものが詰まった中空前粒子(E’)が細胞質で形成され、その後、中の物質が抜けて中空粒子(E)となり、さらに、これにウイルスDNAが充填されはじめ(F’)、最終的に完全にDNAが充填された感染粒子(F)となります(図3)。さらに興味深いことには、DNAの充填粒子が宿主の核の近くで特に多くみられることから、メドゥーサウイルスでは、大量に合成されたウイルスの殻のうち、核の近くにいるものだけが、核から出てきたウイルスDNAを取り込むことができることが分かりました。そして、最終的に完全なDNA充填粒子だけでなく、DNAが充填されていない未成熟の粒子もいっしょに細胞外に放出されることがわかりました。このようなウイルス形成過程は、これまでに例がなく、ウイルスの複製を考える上で、あらたな増殖戦略を提起するものでした。

図1 アメーバ培養上清中のメドゥーサウイルスのクライオ電子顕微鏡像。感染性のウイルス粒子(F)に加えて、中空の粒子(E)、そしてそれぞれの中間的な粒子(F’、E’)の合わせて4種類の粒子が観察された。
図2 感染22時間後のアメーバ細胞中の電子顕微鏡像。培養上清と同様の4種類のメドゥーサウイルスが観察された。
図3 メドゥーサウイルスの形成過程。ウイルスDNA以外のものが詰まった中空前粒子(E’)が細胞質で形成され、その後、中の物質が抜けて中空粒子(E)となり、さらに、核の近くにいる粒子のみにウイルスDNAが充填されはじめ(F’)、最終的に完全にDNAが充填された感染粒子(F)となる。そして、最終的に完全なDNA充填粒子だけでなく、DNAが充填されていない未成熟の粒子もいっしょに細胞外に放出される。

成果の意義および今後の展開

ウイルスの形成過程は、これまで暗黒期と呼ばれており、ほとんど情報がありませんでしたが、巨大ウイルスの発見により、その過程が徐々に解き明かされつつあります。その中で、今回のメドゥーサウイルスの形成過程の発見は、新たなウイルスの増殖戦略を示すものです。メドゥーサウイルスはその遺伝子構成から、巨大ウイルスの中でも最も真核生物(細胞性生物)に近いと考えられています。そのようなウイルスが示す一見非効率的な増殖過程は、ウイルスにとっては効率的な生存戦略を暗示しているのかもしれません。今後、さらに研究を進めることでこれらの謎が解き明かされると期待されます。

研究サポート

本研究は、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費補助金、生命創成探究センター特別共同研究、生理研共同研究等のサポートを受けて実施されました。

用語解説

注1:クライオ電子顕微鏡:
電子顕微鏡によって生体分子の構造を、溶液中のような生理的な環境に近い状態で観察するために開発された手法。試料溶液を約-170℃の溶媒中で急速凍結させ、試料を薄い非晶質氷の中に包埋する。この凍結させた試料を液体窒素(約-200℃)冷却のもと電子顕微鏡観察する。このように冷却することで電子線照射による試料へのダメージも軽減させる。

論文情報

雑誌名:Journal of Virology

論文タイトル:
Particle morphology of medusavirus inside and outside the cells reveals a new maturation process of giant viruses

著者:
Ryoto Watanabe, Chihong Song, Yoko Kayama, Masaharu Takemura and Kazuyoshi Murata*.
(*責任著者)

DOI:10.1128/jvi.01853-21

論文URL:https://journals.asm.org/doi/10.1128/jvi.01853-21

本件に関するお問い合わせ先

研究について

自然科学研究機構 生命創成探究センター/生理学研究所
特任教授 村田 和義
TEL:0564-55-7893
E-mail:kazum_at_nips.ac.jp

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報道について

自然科学研究機構 生命創成探究センター
研究連携推進室
TEL:0564-59-5201 FAX:0564-59-5202
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