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2022年01月06日
  • プレスリリース
動いて並んでつながって。タンパク質が幾何学模様に!プログラムされた分子が自発的にナノ模様を形成

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の菊池幸祐大学院生と上野隆史教授、古田忠臣助教のグループは、九州大学 大学院理学研究院の前多裕介准教授、福山達也研究員(当時)、名古屋大学/自然科学研究機構生命創成探究センターの内橋貴之教授の研究グループと共同で、タンパク質の部品を組み換えることで目的のナノ模様をつくりだすことに成功しました。
タンパク質集合体(用語1)は、持続可能なナノマテリアルや生体内ではたらく分子ロボットの素材として注目されていますが、望みの模様をつくりだすことは困難とされていました。本研究では棒状の構造を有するタンパク質に着目し、その両末端を改造することで分子をプログラムし、三角形格子や横並び状態、ファイバー構造などの二次元ナノ模様の作り分けに成功しました。
今回の二次元ナノ模様は、タンパク質の群れが動きまわりながら相手を見つけ、連結していくことによって形成されます。したがって、これまで分子レベルでは実現されてこなかった、イワシやムクドリの群れのようなアクティブマター(用語2)としてのタンパク質の利用が見込めます。さらに、タンパク質が模様の欠陥をみずから修復して整列していく様子も確認されており、生体適合性の自己回復フィルムやタンパク質由来のウェアラブルデバイスをはじめとする、次世代スマート材料(用語3)としてさらなる応用が期待されます。

本成果は、新学術領域「発動分子科学」と文部科学省科研費の支援によるもので、ナノマテリアル分野において最も権威のある学術誌のひとつである「スモール(Small、Wiley-VCH誌)」のオンライン版で1月6日に公開される予定です。

動いて並んでつながって。タンパク質が幾何学模様に!-プログラムされた分子が自発的にナノ模様を形成-

図1. プログラムされた分子による自発的なナノ模様形成のイメージ図

発表のポイント

  • タンパク質が自発的に動いて相手を選びながら模様をつくる
  • タンパク質の部品を変えるだけで模様の種類を制御できる
  • タンパク質を魚の群れのように操る分子ロボットの作成技術につながる

研究の背景

自然界では、タンパク質が集合することでケージやファイバー、リング、シートなどの構造体をつくりあげ、さまざまな生体機能を発揮しています。こうしたタンパク質集合体のなかでも特にタンパク質二次元集合体は、その表面に規則正しく機能性分子を提示可能なことから、材料分野のみならず生体親和性フィルムなどの医薬分野への応用も期待されています。
近年では、コンピュータ手法や構造解析技術の発展にともない、さまざまなタンパク質二次元集合体が合成されてきました。しかしながら、タンパク質同士の相互作用は非常に複雑であるため、特定の分子からさまざまなナノ模様をつくり分けることは困難とされてきました。

研究成果

上野教授らのグループは、剛直な胴体部分を有する棒状タンパク質PN(用語4)に着目しました。同グループは先行研究において、PNの両末端が自由に改造可能であることを明らかにしており、末端同士の結合を設計することでさまざまな二次元模様を構築できると考えました。
具体的には、両末端に手を伸ばしたヒスタグクラスター(用語5)を有するrPN、両末端がフォールドンドメイン(用語6)に覆われて結合が形成できなくなったrPN_DHis、疎水的なβシート(用語7)による平滑な末端を有するrPN_DTipの計3種類のPNを設計しました(図2)。

図2. 棒状タンパク質の末端設計による二次元ナノ模様デザインの概念図

次に、設計した3種類のPNを高速原子間力顕微鏡(用語8)によって観察したところ、それぞれ三角形ナノ格子、横並び状態、ファイバー構造の形成が確認されました(図3)。このことから、PNの末端の構造設計によって二次元ナノ模様が制御できたことが明らかになりました。

図3. 高速原子間力顕微鏡による、設計PNの二次元ナノ模様観察結果

同研究グループはさらに、一方の末端が結合したrPNが、ピボット状にゆらゆらと回転運動しながら結合相手を探して整列していく様子の直接観察に成功しました(図4)。またこの他にも、PNが並進や回転をするなかで集合化する様子が捉えられ、ナノ模様の形成におけるタンパク質のダイナミックな運動の存在が明らかになりました。

図4. ピボット状に回転しながら相手を探すPNの運動

つづいて、これらの実験で観察された運動性をもとに理論モデルを構築し、モンテカルロ法(用語9)にもとづくシミュレーションをおこないました。その結果、PNの末端の違いによって最終的なナノ模様が劇的に変化する様子が確認され、実験結果とよい一致を示しました(図5)。

図5. 二束ファイバーの透過型電子顕微鏡図と結晶構造の比較

今後の展開

今回報告した二次元ナノ模様制御は、剛直な棒状タンパク質の両末端をデザインして、集合化をプログラムすることによって達成されました。タンパク質はさまざまな改造や複合化が可能であるため、多彩なナノ模様構築や機能化設計の基盤技術となることが見込まれます。さらに、タンパク質が群れとして自発的に動きまわる性質を応用することで、魚や鳥などのアクティブマターに見られる秩序だった群れ運動をおこなう分子ロボットの開発へとつながり、スマート社会の実現に大きく貢献することが期待されます。

用語説明

(1)タンパク質集合体
タンパク質同士の相互作用によって複数のユニットが集まり、より大きなサイズや高度な機能をもつようになったもの。

(2)アクティブマター:
魚や鳥、細胞、タンパク質など、自発的に運動しながらも集団として秩序だった行動パターンをみせる物質のこと。

(3)スマート材料:
周囲の環境や刺激を知覚・判断し、それをもとに適切な行動を起こす機能素材。

(4)棒状タンパク質PN:
Protein Needle。上野教授らのグループが開発したタンパク質であり、長さ約20 nm、幅約3.5 nmの針状構造を有する。およそ100℃の高温やさまざまなpH範囲においても構造を保持することが可能であり、薬剤送達やナノ材料として期待されている。

(5)ヒスタグクラスター:
20種あるアミノ酸のひとつであるヒスチジンが6個連なったものがヒスタグと呼ばれるのに対し、rPNではそのヒスタグが各末端に3つずつ、合計で18個のヒスチジンが提示されており、ヒスタグクラスターと呼ばれる。

(6)フォールドンドメイン:
タンパク質の部分構造のひとつであり、末端構造を覆うことでPN同士の末端結合を阻害する働きを有する。

(7)βシート:
αヘリックスとならぶタンパク質の基本構造のひとつであり、アミノ酸が直線状に一列に並んだペプチド鎖が平行に並んで形成される、シート状の二次構造。

(8)高速原子間力顕微鏡:
二次元材料の表面を分子レベルで観察する原子間力顕微鏡において、より高速で観察画像を取得できるよう改良された装置。

(9)モンテカルロ法:
一定のパラメータのもとで確率的な現象をシミュレーションするための手法のひとつ。

論文情報

雑誌名:Small

論文タイトル:
Protein Needles Designed to Self-assemble through Needle Tip Engineering

著者:
K. Kikuchi,(1) T. Fukuyama,(2) T. Uchihashi,(3,4) T. Furuta,(1) Y. T. Maeda,(2) T. Ueno(1)

所属:
(1)東京工業大学生命理工学院
(2)九州大学大学院理学研究院物理学部門
(3)名古屋大学大学院理学研究科
(4)自然科学研究機構生命創成探究センター(ExCELLS)生命分子動態計測グループ

DOI:10.1002/smll.202106401

本件に関するお問い合わせ先

研究について

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系 教授
上野隆史
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