- 高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)と溶液中の分子を調べる手法を組み合わせ、糖鎖をつくる酵素が、硬い二量体から柔軟に動く集合体まで、多彩な姿と動きを示すことを明らかにしました。
- POMGNT2は2分子が組になった硬い二量体を保つ一方、LARGE1は分子内の部分同士が柔軟に動き、濃度によって分子の集まり方も変わりました。K4CPでは、分子内の部分同士が大きく開閉する様子を捉えました。
- これらの発見は、糖鎖合成酵素の形や動きの多様性を明らかにするとともに、分子の硬さや柔軟さが、それぞれの酵素の働きを支える可能性を示しています。
形を保つ硬い分子のペアから、柔軟に動く集合体まで。糖鎖をつくる酵素は、驚くほど多彩な姿と動きを示します。自然科学研究機構の生命創成探究センター(ExCELLS)の研究チームは、名古屋市立大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、分子科学研究所(IMS)との共同研究により、高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)でその違いを捉えました。分子の動画にX線結晶構造解析や溶液中の測定を組み合わせることで、静止した構造だけでは分からない、糖鎖合成酵素の多彩な動きを明らかにしました。
糖鎖は糖がつながった分子で、細胞同士の情報のやり取りや、細胞の周囲を支える仕組みづくりなどに関わります。糖転移酵素は、糖を受け取る分子に糖を付け加え、こうした糖鎖をつくる酵素です。その中には、化学反応を進めたり、相手となる分子を見分けたりする複数の部分(ドメイン)を備えるものがあります。結晶構造解析やクライオ電子顕微鏡では、分子の形や集まり方を詳しく調べられます。一方、個々の分子が時間とともにどう動くかを知るには、その動きを直接追う必要があります。糖鎖を伸ばす酵素では、伸びていく糖鎖を受け入れ、反応を繰り返すうえで、ドメインの位置や動きが重要と考えられます。本研究では、複数の手法を組み合わせ、酵素ごとの集まり方と動きを比べました。
研究チームは、ヒトのPOMGNT2とLARGE1、細菌由来のコンドロイチン合成酵素K4CPを、溶液に溶ける形でつくり、精製しました。さらに、巨大ウイルスであるミミウイルス由来のL137も調べました。L137は、糖転移酵素として働くと考えられている候補タンパク質です。4種類すべてについて、分子の質量を光で測る「質量フォトメトリー」で集まり方を調べ、HS-AFMでは液中の基板に付着した個々の粒子の動きを追跡しました。ほかの溶液中の測定でも分子の集まり方を確かめるとともに、POMGNT2の結晶構造を新たに決定し、動画で捉えた分子の形と比べました。
POMGNT2は、2分子が組になった安定な二量体を形成し、大きく形を変えることなく、その構造を保ちました。LARGE1では、ドメイン同士が柔軟に動くとともに、タンパク質の濃度によって分子の集まり方が変わりました。とりわけ大きな動きを示したのがK4CPです。ドメイン同士が繰り返し開閉する様子が捉えられ、溶液中の測定では、分子同士が弱く結びつき、濃度が高くなると二量体が増えることも分かりました。また、糖を受け取る相手となるコンドロイチンオリゴ糖を加えると、K4CPはよりコンパクトな形をとる傾向を示しました。この変化の程度は数値では評価していません。ウイルス由来の候補L137は主に1分子ずつ存在し、3つのふくらみが柔軟に配置されており、酵素の形や動きの多様さをさらに示す結果となりました。
本研究は、硬い構造を保つPOMGNT2の二量体から、分子の集まり方が変わり、柔軟に動くLARGE1やK4CPまで、糖鎖合成酵素の多彩な姿を明らかにしました。この違いは、安定した形が相手の分子を正確に見分ける働きを支え、柔軟な部分が伸びていく糖鎖に対応するという、酵素の形や動きと働きのつながりを示唆しています。酵素の動きを直接捉えた本成果は、糖鎖がつくられる仕組みを「構造」と「動き」の両面から理解するための足がかりとなります。今後は、溶液中で調べた今回の結果をもとに、分子の動きと反応を進める能力との関係や、膜への結合が酵素の動きや集まり方に与える影響を調べていきます。
研究助成等について
JST 戦略的創造研究推進事業(CREST)
JPMJCR21E3
JST 創発的研究支援事業(FOREST)
JPMJFR2255
ヒューマングライコームプロジェクト
JSPS科研費 基盤研究(A)
JP24H00599
JSPS科研費 基盤研究(B)
JP21H02625, JP25K02410, JP19H03361, JP24K01309
JSPS科研費 挑戦的研究(萌芽)
JP20K21495
JSPS科研費 学術変革領域研究(A)
JP26H01626
生命創成探究センター(ExCELLS)先端共創プラットフォーム
23EXC601
生命創成探究センター(ExCELLS)「Golgi Atlas Project」
名古屋市立大学 卓越研究グループ支援事業助成金
2401101, 2520001, 2530002
生命創成探究センター(ExCELLS)共同利用・共同研究
18-101, 22EXC601
文部科学省 研究大学コンソーシアム(CURE)プログラム
JPMXP1323015482
文部科学省 先端研究基盤共用促進事業
JPMXS0441500026
日本医療研究開発機構(AMED)創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)
JP22ama121001j0001
論文情報
- 雑誌名:International Journal of Molecular Sciences
- 論文名:
Dynamic Organizational Strategies of Multidomain Glycosyltransferases Revealed by High-Speed AFM and Solution Biophysics
- 著者:
Hirokazu Yagi, You-Rong Lin, Yui Kanaoka, Fumiko Umezawa, Akemi Kim, Kotaro Tomuro, Ken Morishima, Atsuji Kodama, Kentaro Ishii, Susumu Uchiyama, Tadashi Satoh, Masaaki Sugiyama, Takayuki Uchihashi, Koichi Kato
- 論文公開日:2026年7月19日
- 掲載URL:https://www.mdpi.com/1422-0067/27/14/6423
- DOI:10.3390/ijms27146423
著者情報
矢木宏和(名古屋市立大学、生命創成探究センター)、林佑容(生命創成探究センター/分子科学研究所)、金岡優依(名古屋大学)、梅澤芙美子(名古屋市立大学)、金明美(名古屋市立大学)、戸室幸太郎(名古屋市立大学)、守島健(京都大学複合原子力科学研究所)、兒玉篤治(生命創成探究センター)、石井健太郎(生命創成探究センター、大阪大学)、内山進(生命創成探究センター、大阪大学)、佐藤匡史(名古屋市立大学)、杉山正明(京都大学複合原子力科学研究所)、内橋貴之(生命創成探究センター、名古屋大学、糖鎖生命コア研究所、量子フロンティア産業創出拠点)、加藤晃一(生命創成探究センター/分子科学研究所、名古屋市立大学)
お問い合わせ先
研究内容に関するお問い合わせ
加藤 晃一
自然科学研究機構 生命創成探究センター/分子科学研究所 教授
名古屋市立大学 大学院薬学研究科 特任教授
E-mail:kkatonmr_at_ims.ac.jp
広報に関するお問い合わせ
自然科学研究機構 生命創成探究センター(ExCELLS)研究力強化戦略室
E-mail:press_at_excells.orion.ac.jp
分子科学研究所 研究力強化戦略室 広報担当
E-mail:press_at_ims.ac.jp
※_at_を@に変換してください。
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