ポイント
- 酵素反応による自発的なブロック共重合機構を解明。
- 重合中の酵素の構造変化を解析することに成功。
- 高機能バイオプラスチックの微生物合成技術の発展に期待。
概要
北海道大学大学院工学研究院の松本謙一郎教授らの研究グループは、自然科学研究機構生命創成探究センター、北海道大学大学院薬学研究院の研究グループと共同して、代表的な生分解性プラスチックであるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を合成する重合酵素において、重合反応そのものが酵素の機能を切り替える“自己誘導型機能スイッチング” を発見しました。研究グループが過去に開発したPHAの重合酵素「PhaCAR」は、2種類の基質の混合物から、自発的にブロック共重合体を合成することが見出されていました。しかし、本酵素が重合の途中でモノマーを切り替える仕組みは分かっていませんでした。本研究は、「酵素が自らの反応産物によって機能を切り替え、モノマー配列を制御する」という、これまで知られていなかった生体高分子合成の原理を明らかにしました。本成果は、PHAの物性制御を飛躍的に拡張し、次世代の生分解性材料開発に新たな指針を与えるものです。
なお、本研究成果は、2026年6月14日(日)公開のJournal of the American Chemical Society誌にオンライン掲載されました。

研究の詳しい内容
背景
ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)は微生物が生産する生分解性ポリエステルで、海洋や土壌でも分解される環境調和型材料として注目されています。しかし、「強度と柔軟性の両立」、「熱特性の制御」、「高機能化」の課題を解決するには、モノマー配列が制御されたブロック共重合が有効な手段と考えられてきました。
化学合成では、逐次重合によりブロック共重合体が合成されていますが、生体内におけるPHAの合成では、同様の逐次重合を行うことは困難でした。研究チームが過去に開発したPHAの重合酵素「PhaCAR」は、2種類の基質3-hydroxybutyryl-CoA(3HB-CoA)と2-hydroxybutyryl-CoA(2HB-CoA)の混合物から、自発的にブロック共重合体[P(3HB)-b-P(2HB)]を合成することが知られていました。しかし、本酵素が重合の途中でモノマーを切り替える仕組みは分かっていませんでした。
研究手法と成果
研究チームは、独自に開発したin vitro複数基質反応解析系を用いて、以下の重合誘導型の機能スイッチングを発見しました(図1)。初期状態のPhaCARは天然基質(3HB-CoA)のみを重合しますが、P(3HB)鎖が伸びると酵素が“成熟”し、非天然基質(2HB-CoA)も重合可能になります。このスイッチングのメカニズムを解析するには、重合途中の状態の酵素を作り出す必要がありました。しかし、一度開始した重合を特定のタイミングで停止することは不可能です。そこで、様々な重合度の3HBオリゴマーと補酵素A(CoA)をそれぞれ結合した「基質アナログ」を複数合成し、酵素の重合反応を段階的に追跡することに成功しました。その結果、オリゴマーの重合度が大きいほど(すなわち重合の進行に伴って)、2HB-CoAへの活性が段階的に上昇することが判明しました。
さらに、本研究では、PHA重合酵素のクライオ電子顕微鏡での解析に初めて成功しました。これにより、初期状態のPhaCARと3HBオリゴマー結合後のPhaCARの間で、酵素の構造が変化していることを確認しました。とくに、酵素の活性中心を覆うサブドメインが大きく動くことで、基質特異性が拡張される可能性が示されました。
ブロック共重合体の合成反応の後半で、基質が混合した状態から、どのようにして2HBのみが単独で重合されるのかも未解明でした。本論文の解析により、反応中に2HB-CoAが3HB-CoAの重合を阻害することが判明しました。これにより、ブロック共重合体の構造が形成されると考えられます。

今後への期待
本研究は、「酵素が自らの反応産物によって機能を切り替え、モノマー配列を制御する」という、これまで知られていなかった生体高分子合成の原理を明らかにしました。
この発見は、「生分解性プラスチックの高機能化」、「生体触媒による精密ポリマー合成」、「持続可能な材料化学の発展」に大きく貢献するものです。
研究助成等について
本研究はJSPS科研費JP25KJ0503、JP20H04368、ExCELLS一般共同利用研究 25EXC327、BINDS(AMED)JP22ama121037の助成を受けたものです。
論文情報
- 論文名:Polymerization-Induced Functional Switching of Engineered Polyhydroxyalkanoate Synthase Directs Block Copolymerization(重合反応によるPHA合成酵素の機能変化がブロック共重合を引き起こす)
- 著者名:柳川謙吾1、兒玉篤治2、冨田宏矢3、喜多俊介4、蜂須賀真一3、菊川寛史3、内山 進2,5、前仲勝実4、松本謙一郎3(1北海道大学大学院総合化学院、2自然科学研究機構生命創成探究センター、3北海道大学大学院工学研究院、4北海道大学大学院薬学研究院、5大阪大学大学院工学研究科)
- 雑誌名:Journal of the American Chemical Society(化学の専門誌)
- DOI:10.1021/jacs.6c04919
- 公開日:2026年6月14日(日)(オンライン公開)
お問い合わせ先
研究内容に関するお問い合わせ
北海道大学大学院工学研究院 教授 松本謙一郎(まつもとけんいちろう)
メール mken_at_eng.hokudai.ac.jp
URL https://biosynchem.eng.hokudai.ac.jp/
広報に関するお問い合わせ
北海道大学社会共創部広報課(〒060-0808 札幌市北区北8条西5丁目)
メール jp-press_at_general.hokudai.ac.jp
自然科学研究機構生命創成探究センター(ExCELLS)研究力強化戦略室
(〒444-8787 岡崎市明大寺町字東山5-1)
メール press_at_excells.orion.ac.jp
※_at_を@に変換してください。
プレスリリース
酵素の“自己変換”によるブロック共重合メカニズムを発見
~生分解性プラスチックPHAの高機能化に期待~
メディア掲載情報
新聞・ニュースサイトに掲載されました。
■Tii生命科学
[2026.06.24] 掲載記事