NEWS

2019年06月18日
  • プレスリリース
血管平滑筋細胞の筋分化(成熟)を促すメカニズムを解明

西田 基宏 教授(九州大学教授兼務)と冨田 拓郎 助教(現・信州大学准教授)は、九州大学、京都大学などとの共同研究で、Ca2+/Na+透過型チャネルタンパク質TRPC6が、平滑筋細胞膜の脱分極(電気的興奮)を促すことで、血管平滑筋細胞の筋分化(成熟)を負に制御することを見出しました。

虚血状態においてTRPC6チャネル電流を抑制しておくと、血管平滑筋細胞の筋分化が回復したことから、TRPC6阻害薬が虚血組織の血管の再生・修復促進に働く可能性が期待されます。

血管平滑筋細胞は、成熟血管を構成する主たる細胞であり、自身を収縮させることで血管内径を小さくし、全身の血圧を上昇させる役割を担っています。血管平滑筋は、体が障害を受けて血管を修復する際あるいは血液需要の高まりに応答して血管を太くする際には、平滑筋の収縮機能を抑えると同時に平滑筋細胞の増殖能・遊走能を高めて血管の再構成に対応します。血管平滑筋は、収縮能が高い収縮型と増殖能が高い増殖型という二つの表現型を柔軟に切り替えることで、血管の恒常性を維持しています。しかしながら、この表現型の切り替え(スイッチ)を司る分子機構は未だ解明されていません。私たちは、非選択的カチオンチャネルTRPC6が血管平滑筋細胞の膜電位を脱分極(電気的興奮)する方向に働くことで、血管平滑筋の収縮型への筋分化を負に制御することを明らかにしました。血管平滑筋の分化にはAktとよばれるタンパク質のリン酸化(=活性化)が重要であることが知られています。私たちは、TRPC6の欠損やチャネル電流阻害によってAktのリン酸化を負に制御する脱リン酸化酵素PTENが細胞膜から離れ、Aktのリン酸化が促進されることを見出しました。

血管平滑筋の過剰な増殖は、動脈硬化や肺動脈性肺高血圧症の病態形成の主たる原因の一つであることが知られています。本研究は、血管平滑筋の増殖を抑える手法の一つとして、TRPC6が有効な創薬標的であることを強く示唆し、血管平滑筋の異常による血管病治療に大きく貢献するものと期待されます。

図. TRPC6チャネル活性化による血管平滑筋細胞膜の興奮(脱分極)は、PTEN依存的にAktを抑制することで、血管疾患の原因となる平滑筋細胞の過剰増殖を引き起こす。

論文情報

Title
TRPC6 regulates phenotype switching of vascular smooth muscle cells through plasma membrane potential-dependent coupling with PTEN.

Authors
Numaga-Tomita, T., Shimauchi, T., Oda, S., Tanaka, T., Nishiyama, K., Nishimura, A., Birnbaumer, L., Mori, Y., and Nishida, M.

Journal
The FASEB Journal

Date
2019 Jun 4

URL
https://www.fasebj.org/doi/abs/10.1096/fj.201802811R

DOI
10.1096/fj.201802811R.

共同研究情報

研究者名: 冨田 拓郎
研究機関名: 信州大学
研究者の所属講座名、部門名: 医学部 分子薬理学教室

研究者名: Lutz Birnbaumer
研究機関名: Catholic University of Argentina, Institute of Biomedical Research
研究者の所属講座名、部門名: School of Medical Sciences

研究者名: 森 泰生
研究機関名: 京都大学
研究者の所属講座名、部門名: 大学院工学研究科、合成・生物化学専攻 分子生物化学分野

科研費や補助金、助成金などの情報

本研究は日本学術振興会の科学研究費補助金、文部科学省の新学術領域「酸素生物学」・「宇宙に生きる」、小野医学研究財団などの研究助成による支援を受けて行われました。