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2024年10月11日
  • プレスリリース
2匹のクシクラゲ1匹に融合する現象を発見

クシクラゲは有櫛動物に分類され、すべての動物の中で最も原始的な動物群であると考えられている海産の動物です。自然科学研究機構 生命創成探究センター/基礎生物学研究所の城倉圭研究員らは、傷ついた2個体のクシクラゲが、わずか数時間で融合して、まるで1個体のように振る舞う現象を新たに発見しました。この成果は2024年10月7日に Current Biology 誌に掲載されました。

研究チームが実験室で初めて融合に成功したクシクラゲ
研究チームが実験室で初めて融合に成功したクシクラゲ(画像提供:城倉圭)

研究の背景

クシクラゲは、名前にクラゲと付いていますが、有櫛(ゆうしつ)動物と呼ばれる動物群に分類され、刺胞動物のクラゲとは全く別の動物群です。近年、クシクラゲは地球上に現存するすべての動物の中で、進化的に最も初期に分岐した、いわば“最も原始的”な動物群であると報告されました。その系統的な位置とは対照的に、クシクラゲは高度な神経系や筋肉、消化器をもち、様々な生理学的ふるまいを示します。昨年クシクラゲの体表面を覆っている神経網を構成する神経細胞どうしが、シナプスを介さないネットワークを形成していることが報告され、クシクラゲの生理機能がどのように協調されているのか非常に注目されています。今回の研究では、偶然発見したクシクラゲの奇妙な融合現象を明らかにしました。

研究の成果

城倉研究員は、クシクラゲの一種のMnemiopsis leidyi(ムネミオプシス・レイディ)を維持していた水槽の中から、口を2つ持った一回り大きい異様な形態の個体を偶然発見しました。研究員らは、この1個体のように見えるクシクラゲが、別々の2個体が1個体に融合したのではないかと推測しました。いくつかの実験を行った結果、体の一部を切除した個体を2個体用意し、切除部分が接触するようにピンで固定し一晩静置させることにより高確率で融合個体を作成できることが分かりました。次に融合現象がどのように起こっているのかを調べるために、顕微鏡下で融合過程のタイムラプス撮影を行いました(図1)。実験開始から約30分後に2個体の切除部分が徐々に癒着し始め、1時間後にはその境界はほとんど見分けがつかない程度に融合しました。その後、徐々に両者の筋収縮が同期し始め、2時間後にはその同期率は9割に達しました。

図1.融合前後の筋収縮の同期パターン

左は実験開始40分後の左右の筋収縮が同期していない様子、右は実験開始100分後の左右の筋収縮が同期している様子を示している。
図1.融合前後の筋収縮の同期パターン
左は実験開始40〜60分後の左右の筋収縮が同期していない様子、右は実験開始100〜120分後の左右の筋収縮が同期している様子を示している。

融合した個体を顕微鏡で観察すると、それらの消化管が繋がっているように観察できました。そこで、融合したクシクラゲの片側の個体の口から蛍光物質で色付けをした餌(ブラインシュリンプ)を与えたところ、片側で消化された消化物は、融合した消化管を通って、もう片側の消化管へと輸送され、最終的に餌を与えた側とは別の側の肛門から糞が排出されました(図2)。

図2.蛍光標識した餌が消化管を通って運搬される様子

給餌後60分では餌を与えた側とは別の個体の肛門から糞が出ている様子(白い矢印)を示している。
図2.蛍光標識した餌が消化管を通って運搬される様子
給餌後60分では餌を与えた側とは別の個体の肛門から糞が出ている様子(白い矢印)を示している。

研究の意義と今後の展開

城倉研究員は「今回の実験で融合が高確率で起こったことから、クシクラゲが自己と非自己を区別するためのメカニズムを持っていない可能性が考えられます。また、筋収縮が同期した結果は、クシクラゲの神経細胞どうしが融合し、電気シグナルを共有していることを示唆しています。今後は、融合した個体どうしが遺伝的にどれくらい離れているのかを調べたり、実際にクシクラゲの神経細胞の活性を可視化し、生理機能がどのように協調されているのかを観察したりすることで、融合の分子メカニズムに迫りたいと考えています」と語っています。

論文情報

雑誌名:Current Biology
掲載日:2024年10月7日
論文タイトル:Rapid physiological integration of fused ctenophores
著者:Kei Jokura, Tommi Anttonen, Mariana Rodriguez-Santiago,and Oscar M. Arenas
DOI:http://dx.doi.org/10.1016/j.cub.2024.07.084

研究グループ

本研究は、アメリカのグラス財団より選出された城倉圭博士(実験当時 日本学術振興会海外特別研究員で英国エクセター大学所属、現在、自然科学研究機構 生命創成探究センターおよび基礎生物学研究所 研究員)が中心となって、南デンマーク大学のトミー・アントネン博士、米国コロラド州立大学のマリアナ・ロドリゲス=サンティアゴ博士、米国カリフォルニア大学バークレー校のオスカー・アレナス博士との共同研究として行われました。

研究サポート

本研究は、米国グラス財団米国カブリ財団の支援のもと、米国マサチューセッツ州ウッズホール海洋生物学研究所にて行われました。

本研究に関するお問い合わせ先

自然科学研究機構 生命創成探究センター 神経ネットワーク創発研究グループ
自然科学研究機構 基礎生物学研究所 神経行動学研究部門
研究員 城倉 圭 (ジョウクラ ケイ)
(日本学術振興会 特別研究員 PD)
E-mail: jokura_at_nibb.ac.jp

報道担当

自然科学研究機構 基礎生物学研究所 広報室
E-mail: press_at_nibb.ac.jp

自然科学研究機構 生命創成探究センター 研究戦略室
E-mail: press_at_excells.orion.ac.jp

※_at_は@にご変更ください。

プレスリリース

【日本語】2匹のクシクラゲが1匹に融合する現象を発見

【英語】After injury, these comb jellies can fuse to become one