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2024年09月20日
  • セミナー
43 ExCELLSセミナー
共催:学際ハブプログラム「スピン生命フロンティア」

第43回 ExCELLSセミナーを開催いたします。
本セミナーは、共同利用・共同研究システム形成事業 「学際領域展開ハブ形成プログラム」
【スピン生命フロンティア】の共催で開催いたします。

 ※本セミナーは日本語で実施されます。Seminar Language: Japanese

日時

2024年10月22日(火) 16:00〜17:00

会場

山手3号館2F西 大会議室   

演者

木川 隆則 博士
国立研究開発法人理化学研究所 生命機能科学研究センター 上級研究員

題目

同位体標識と情報科学を活用した細胞環境でのNMR計測とスピン生命科学

要旨

細胞内における生体分子の挙動は、分子混雑や生体分子凝縮体を含む細胞小器官などの細胞環境の影響を受けることが知られるようになってきた。その挙動は、希薄で均一な溶液中とは異なるため、本来の細胞環境における生体分子の構造と動的性質を直接的に調べることが重要になっている。私たちは、情報科学技術と融合したNMR分光法を用いて、細胞環境下の生体分子の構造ダイナミクスを解析することで、細胞内現象を原子分解能で解明することに取り組んできた。
安定同位体(SI)標識は生体分子NMR解析において最も重要な技術の一つである。我々は生体分子NMRのための高度なSI標識に特に有用な、無細胞タンパク質合成システム(CF)を開発し、応用してきた(1,2)。CFを用いた精密で正確なSI標識と、ベイズ推論(1)やテンソル分解(2)などの情報科学技術の組み合わせは、高分子量、低溶解度、低シグナル強度、天然変性タンパク質・領域、生きた細胞内のNMR(in-cell NMR)など、困難な条件下での解析に特に有用である(3,4)。
解糖系は、細胞内のエネルギー産生と代謝恒常性において基本的な役割を果たしている。細胞内のATPレベルは解糖フラックスを制御しているが、個々の解糖系酵素が触媒する反応が、フラックス適応を可能とする分子機構の解明は不十分であった。私たちは、CFによる標識を用いて、解糖系でATPを産生する酵素:ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)が、細胞内ATPレベルの変化に対応するように巧妙に設定されたリガンド結合協同性を介して、自身の活性を調節することにより、細胞内環境の変化へ迅速に対応可能であることを明らかにした(3)。低分子GTP結合タンパク質H-Rasは、超可変領域 (HVR)として知られるC末端領域内の翻訳後脂質修飾を介して細胞膜(PM)に局在する。CFを活用した部位特異的な19F標識導入とベイズスペクトル分解の利用により、in-cell NMRの低S/Nデータから信号検出することが可能となった。ヌクレオチド結合状態やがん原性変異状態に依存した、PM上のH-RasのNMR信号の変化から、コンフォメーション多様性の変化が明らかとなった(4)。本講演では、これら成果とスピン生命科学の関わりについても議論したい。

[文献]
1.T. Kasai, S. Koshiba, J. Yokoyama, and T. Kigawa, J. Biomol. NMR 63, 213-221 (2015). 2.T. Kasai, S. Ono, S. Koshiba, M. Yamamoto, T. Tanaka, S. Ikeda, and T. Kigawa, J. Biomol. NMR 74, 125-137 (2020). 3.H. Yagi, T. Kasai, E. Rioual, T. Ikeya, and T. Kigawa, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 118, e2112986118 (2021). 4.M. Ikari, H. Yagi, T. Kasai, K. Inomata, M. Ito, K. Higuchi, N. Matsuda, Y. Ito, and T. Kigawa, JACS Au 3, 1658-1669 (2023).

ポスター

 

 

お問い合わせ先

谷中 冴子、加藤 晃一(生体分子動秩序創発研究グループ)