【プレスリリース】左右の協調的な運動を担う交叉型抑制性神経細胞の重要性が明らかに

歩行運動における左右の手足、および、足を持たない魚類の遊泳運動においての左右の筋肉の協調運動は、スムーズな動きを作るうえで大変重要であることが知られています。この協調運動は脊髄神経回路によって作られることが知られていますが、どのような神経細胞が重要な働きをしているかはわかっていませんでした。
今回、元 自然科学研究機構 岡崎統合バイオサイエンスセンター 佐藤千恵研究員(現Friedrich Miescher Institute 研究員)、基礎生物学研究所 神経行動学研究部門 / 生命創成探究センターの木村有希子助教、東島眞一教授らは、dmrt3aという転写因子陽性のdI6神経細胞とdbx1bという転写因子陽性のV0d神経細胞が、交叉性抑制性細胞であり、これらが協調的に働くことで、左右の協調的な運動が作られていることを示しました。

この結果は脊椎動物の運動を作り出す脊髄神経回路を理解するうえで、大変重要な洞察を与えるものです。この研究成果は、Cell Reports誌に、2020年3月3日付けで掲載されます。


 

研究の背景

脊椎動物の脊髄においては、その発生時においてドメイン状に転写因子が発現することが知られています。また、この転写因子の発現は脊椎動物に共通であり、これは、足を持たない魚類の脊髄神経回路は、ほ乳類のその回路の原型である可能性を示唆しています。特に、左右の協調は二足歩行動物、四足歩行動物、さらには足を持たない魚類においても、スムーズな行動を作るうえで、普遍的、かつ根源的に重要であり、その協調的な運動は脊髄神経回路によって作られていると考えられています。しかしながら、脊髄神経回路の中でも交叉型抑制性細胞が左右の協調に重要な役割を担っていることが示唆されてきていましたが、その実態はよくわかっていませんでした。

本研究では、dmrt3aという転写因子を発現する交叉型抑制性細胞とdbx1bという転写因子を発現する交叉型抑制性細胞に着目し、これらが協調して、左右の協調的な運動を生み出していることを明らかにしました。
 

研究成果

研究グループは、まず、ゼブラフィッシュ稚魚を用いて、脊髄交叉型抑制性細胞を可視化することに成功しました(図1)。今回、dmrt3aという転写因子陽性のdI6神経細胞(dmrt3a-dI6神経細胞)とdbx1bという転写因子陽性のグリシン作動性の神経細胞(V0d神経細胞)をGFP(緑色蛍光タンパク質)を用いて可視化し、この2つのグループの神経細胞が両方とも、交叉性抑制性細胞であることを示しました。
 

図1:dmrt3a-dI6細胞(左)、V0d神経細胞(右)の可視化
GFPを用いて、dmrt3a-dI6細胞(左)とV0d神経細胞(右)を可視化した。

 
次に研究グループは、dmrt3a-dI6神経細胞とV0d神経細胞にチャネルロドプシンという光によって発火が制御できるタンパクを発現させ、これらの細胞が反対側の様々な神経細胞に結合し、抑制をかけていることを明らかにしました。
 

 
図2:dmrt3a-dI6細胞(左)、V0d神経細胞(右)と結合している神経細胞
チャネルロドプシンを発現させたことにより、各細胞を光刺激で発火させることができた(上図)。
この系を用いて、dmrt3a-dI6細胞(左)、もしくは、V0d神経細胞(右)と結合している細胞を探索した結果、様々な遊泳運動にかかわる神経細胞が結合していることが明らかになった。

 
これらの細胞群の魚の遊泳行動中に発火するタイミングを電気生理学的手法で解析した結果、これらの細胞は、同側の筋肉が屈曲するタイミングで活動していることを明らかにしました。つまり、dmrt3a-dI6神経細胞とV0d神経細胞は、反対側の神経細胞群が活動しないように抑制をかけていることが明らかになりました。さらに、dmrt3a-dI6細胞は普通の遊泳中により発火し、V0d神経細胞はより速い遊泳および逃避行動中に発火するということも明らかにしました。
 

 
図3:遊泳運動中のdmrt3a-dI6細胞(左)、V0d神経細胞(右)の発火様式
dmrt3a-dI6細胞(左)もV0d神経細胞(右)も同側の運動神経が発火するタイミングで発火していることが明らかになった。また、V0d神経細胞(右)はdmrt3a-dI6細胞(左)に比べて、速い泳ぎや逃避行動などの強い動きのときにより発火することが明らかになった。

 
さらに、ジフテリアトキシンいう神経細胞を破壊する毒素をdmrt3a-dI6神経細胞に発現させることにより、遊泳行動におけるdmrt3a-dI6神経細胞の役割を明らかにしました。dmrt3a-dI6神経細胞を破壊した魚の遊泳行動は、しばしば左右の協調性が失われ、筋肉の両収縮が頻繁に起こっていました。この結果より、dmrt3a-dI6神経細胞の遊泳行動における左右協調性への重要性が示されました。
 

 
図4:dmrt3a-dI6細胞除去魚の遊泳行動
野生型(左)の魚においては左右が交互に活動し、リズミカルな運動が作られているのに対し、dmrt3a-dI6細胞除去魚(右)においては、しばしば左右が同時に活動し、その結果、筋肉の両収縮が起こっていることが明らかになった。

 

今後の展望

魚の脊髄回路は、ほ乳類の脊髄神経回路の元となる回路を有していると考えられているため、この研究が、さらに複雑な回路を有するほ乳類の脊髄神経回路を理解する基礎となることが期待されます。また、近年、脊髄損傷からのリカバリーの研究も増えてきており、脊髄神経回路を理解する事は、将来的に脊髄損傷時に特定の神経細胞を再生することなどにも役立つことも期待されます。
 

研究グループ

本研究は元 自然科学研究機構 岡崎統合バイオサイエンスセンター 佐藤千恵研究員(現Friedrich Miescher Institute研究員)、基礎生物学研究所 神経行動学研究部門/生命創成探究センターの木村有希子助教、東島眞一教授のグループによる研究成果です。
 

研究サポート

本研究は、科学研究費補助金のサポートを受けて行われました。
 

掲載論文

雑誌名:Cell Reports
掲載日:2020年3月3日(日本時間 2020年3月4日)
論文タイトル:Functional diversity of glycinergic commissural inhibitory neurons in larval zebrafish
DOI:https://doi.org/10.1016/j.celrep.2020.02.015
 

本件に関するお問い合わせ先

《研究全般に関するお問い合わせ先》
自然科学研究機構 基礎生物学研究所/生命創成探究センター
教授 東島 眞一
TEL: 0564-59-5875
E-mail: shigashi[at]nibb.ac.jp

《報道に関するお問い合わせ先》
自然科学研究機構 基礎生物学研究所 広報室
TEL: 0564-55-7628
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自然科学研究機構 生命創成探究センター 広報担当
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