【プレスリリース】種ごとに違う、蚊の逃避行動に関わるセンサー分子の特性

今回、自然科学研究機構 生理学研究所のTianbang Li研究員、齋藤 茂助教および富永真琴教授は、大日本除虫菊(株)の協力により、高温や化学物質に対する逃避行動に関わるセンサー分子であるTRPA1の特性が、生息地の温度環境に応じて変化することを、蚊において明らかにしました。また、TRPA1を活性化させる新たな化学物質を特定しました。

これらの結果は、蚊の防除対策などに将来的に役立つと期待されます。本研究結果は、Scientific Reports誌(2019年12月27日にオンラインで出版)に掲載されました。

研究の背景

蚊は吸血を介して人に不快なかゆみを引き起こすだけでなく、時に病気を媒介することもあるため防除法が古くから研究されてきました。効果的な防除法を開発するために、蚊の忌避行動の仕組みを調べる研究が盛んに進められています。多くの動物においてTRPA1注1と呼ばれるセンサータンパク質が、外界の危険な温度や化学物質の受容をすることが知られています。蚊においてもマラリヤを媒介するガンビエハマダラカを中心に、TRPA1が高温や化学物質の受容に関わることが報告されています。一方で、世界中には多くの種の蚊が、異なる地域に分布しています。進化の過程で多くの種の蚊に分かれていくなかで、TRPA1の特性も変化してきたと考えられます。そこで今回、類縁関係の異なる4種の蚊を用いた研究を行いました。熱帯域を中心に生息する3種の蚊(ガンビエハマダラカ・ステフェンシハマダラカ・ネッタイシマカ)と温帯域に生息する1種の蚊(アカイエカ)のTRPA1の特性を比べました。

研究の成果

まず、TRPA1の高温に対する応答特性を比較しました。いずれの蚊のTRPA1も温度刺激に感受性を示しましたが、熱帯域に生息する蚊(ガンビエハマダラカ・ステフェンシハマダラカ・ネッタイシマカ)のTRPA1は28℃から32℃で活性化する一方、温帯域に生息するアカイエカのTRPA1は約22℃で活性化し、両者には10℃近い差がありました(図1)。そこで、実際に行動レベルで温度に対する反応に違いがあるかどうかを調べるために、蚊に22℃と30℃の2つの温度の場所を選ばせる行動実験を行ったところ、アカイエカは30℃を避けましたが、ネッタイシマカは2つの温度を区別しませんでした(図2)。これらの結果から、蚊は進化の過程で温度センサーTRPA1の機能を変化させて生息域の温度環境に適応してきたと考えられます。TRPA1は多くの動物種で侵害刺激(痛み感覚を引き起こす刺激)のセンサーとして機能しています。熱帯域の蚊はTRPA1の活性化温度閾値を高くして、暑い環境を不快と感じなくしてきたと想像できます。

次に、TRPA1の化学物質に対する応答特性を4種の間で比べました。TRPA1は防虫剤として使われるシトロネラ油によって活性化されることが知られています。TRPA1のシトロネラ油に対する感受性を4種の蚊の間で比べたところ、ガンビエハマダラカとステフェンシハマダラカに比べて、ネッタイシマカとアカイエカは感受性が高いことが分かりました。シトロネラ油の蚊に対する忌避効果が種によって異なる可能性があります。更に、忌避剤として将来的に利用することを期待して、様々な化学物質をTRPA1に作用させたところ、TRPA1の活性化させる化学物質を新たに4種類見つけました。

図1:熱帯域と温帯域に生息する4種の蚊の高温センサーTRPA1の温度応答特性


熱帯域に生息する3種の蚊(ガンビエハマダラカ・ステフェンシハマダラカ・ネッタイシマカ)と温帯域に生息するアカイエカのTRPA1の熱による活性化温度域値を示しています。

図2:ネッタイシマカ(熱帯域)とアカイエカ(温帯域)の温度依存性行動

22℃と30℃のプレートを用いた蚊の行動実験で、アカイエカは30℃を避けましたが、ネッタイシマカは2つの温度差を区別しませんでした。

成果の意義及び今後の展望

今回の研究成果は、忌避行動に関わるTRPA1の特性が蚊の種によって異なることを明らかにしました。蚊に対する忌避剤の効果が種によって異なる可能性があり、将来的により効果的な防除法を開発するために有用な情報となることが期待されます。

富永教授は、「今回の研究によって、蚊が異なる温度環境に適応していく進化の過程で、温度センサーの機能を変化させてきたことが示されました。地球温暖化で熱帯域の蚊が日本でも観察されるようになってきました。TRPA1を活性化する新しい化学物質の発見は、蚊の忌避剤の開発につながるでしょう。」と話しています。

研究サポート

本研究は日本学術振興会科学研究費補助金の補助を受けて行われました。

用語解説

注1:TRPA1(トリップエイワン)
温度や化学物質のセンサー分子。ほとんどの動物種において刺激として認識される化学物質の受容を担っている。ヒトではTRPA1は低温のセンサーであると報告されているが、昆虫では高温のセンサーとして働いている。

掲載論文

雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Diverse sensitivities of TRPA1 from different mosquito species to thermal and chemical stimuli
著者:Tianbang Li, Claire T. Saito, Tomoyuki Hikitsuchi, Yoshihiro Inoguchi, Honami Mitsuishi, Shigeru Saito, and Makoto Tominaga

本件に関するお問い合わせ先

《研究全般に関するお問い合わせ先》
自然科学研究機構 生理学研究所細胞生理研究部門/生命創成探究センター
教授 富永 真琴 (トミナガ マコト)
Tel: 0564-59-5286 FAX: 0564-59-5285
email: tominaga[at]nips.ac.jp

自然科学研究機構 生理学研究所細胞生理研究部門/生命創成探究センター
助教 齋藤 茂 (サイトウ シゲル)
Tel: 0564-59-5287 FAX: 0564-59-5285
email: sshigeru[at]nips.ac.jp

《報道に関するお問い合わせ先》
自然科学研究機構 生理学研究所 研究力強化戦略室
TEL: 0564-55-7722、FAX: 0564-55-7721
email: pub-adm[at]nips.ac.jp

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