【プレスリリース】アミロイドβペプチドはなぜ細胞膜表面で凝集しやすいのか? 〜アルツハイマー病の原因物質が形成される仕組みを解明〜

発表者

伊藤 暁  (自然科学研究機構分子科学研究所 助教)(生命創成探究センター 併任)
矢木 真穂 (自然科学研究機構生命創成探究センター 助教)(分子科学研究所 併任)
加藤 晃一 (自然科学研究機構生命創成探究センター 教授)(分子科学研究所 併任)
奥村 久士 (自然科学研究機構生命創成探究センター 准教授)(分子科学研究所 併任)
 

発表のポイント

・アルツハイマー病はアミロイドβ(Aβ)ペプチドの凝集体が原因で発症するが、この凝集は細胞膜表面で促進される。
 
・分子動力学シミュレーション※1と核磁気共鳴分光法実験※2により、凝集促進の理由はAβペプチドが細胞膜表面に集まりやすいだけでなく、βヘアピン構造※3という互いの結合を促進する構造を取っているためであることを世界で初めて解明した。
 
・Aβペプチドの凝集機構の解明は、将来的にアルツハイマー病の原因物質が生成されないようにするための薬剤の開発に繋がるなど、医療界への貢献が期待できる。
 

概要

研究の背景
タンパク質は濃度が高くなると凝集し、オリゴマーという球状の物質やアミロイド線維という針状の物質を形成することがあります。これらのタンパク質凝集体は30 種類以上の病気の原因であり、例えばアルツハイマー病はアミロイドβ(Aβ)ペプチドが凝集してできたオリゴマー※4やアミロイド線維※5が脳に蓄積することが原因と考えられています。Aβペプチドの凝集は神経細胞の膜表面のような親水性・疎水性界面で促進されることが知られています。しかし、なぜ細胞膜表面でAβペプチドが凝集しやすいのかその理由はまだよくわかっていませんでした。そこでコンピューターを使った分子動力学シミュレーションと核磁気共鳴分光法実験とを用いてこの問題に取り組みました。
 
研究の成果
その結果、Aβペプチドは親水性アミノ酸残基と疎水性アミノ酸残基の両方を持っているため、細胞膜表面のような親水性・疎水性界面に存在する方が安定であることが分かりました。さらにAβペプチドは疎水性アミノ酸残基の多い範囲が二か所あります(β1領域と言われる13-20番目のアミノ酸残基とβ2領域と言われる31-36番目のアミノ酸残基)が、細胞膜表面ではβ1領域とβ2領域の間でβヘアピン構造(図中黄色矢印↑↓)を水中よりも多くとっていることが分かりました。βヘアピン構造は図のようにAβペプチドの一部分がまっすぐに伸び、その間で水素結合を作っています。まっすぐに伸びた部分は近くに来た別のAβペプチドとも分子間水素結合を作りやすく、Aβ同士が強く引き合って並びます。これが次々つながって大きなかたまりになるため、凝集しやすいのです。このように細胞膜表面にはAβペプチドが集まりやすいだけでなく、Aβペプチドが互いに結合しやすい構造を取っていることが細胞膜表面におけるAβペプチドの凝集促進の理由であることが解明されました。
 
 
【図】
 

(a) Aβペプチドが親水性・疎水性界面でβヘアピン構造を形成している様子を示す。
(b) (a)を下から見た図。
 
 
 

この研究の社会的意義

この発見によりAβペプチドが神経細胞の膜表面で凝集する機構を解明できました。Aβペプチドが凝集する機構を解明することは、将来的にアルツハイマー病の原因物質が生成されないようにするための薬剤の開発に応用されることが期待されます。
 

用語解説

1.分子動力学シミュレーション:原子や分子の配置から力を計算し、ニュートンの運動方程式を数値的に解くことで仮想的に原子や分子の運動をコンピューター上で再現する計算手法。
 
2.核磁気共鳴分光法:磁場中に置かれた原子核が固有の周波数の電磁波と共鳴する現象を核磁気共鳴という。この現象を用いて分子の構造などを調べる実験手法を核磁気共鳴分光法という。
 
3.βヘアピン構造:1つのタンパク質がヘアピン状に曲がって分子内水素結合を作ることにより安定している構造。図の黄色い部分が相当する。
 
4.オリゴマー:タンパク質が球状に凝集してできた物質。
 
5.アミロイド線維:タンパク質が線維状に凝集してできた物質。アルツハイマー病はアミロイドβ(Aβ)ペプチドが凝集してできたオリゴマーやアミロイド線維が原因で発症すると言われている。
 

論文情報

掲載誌: Journal of Physical Chemistry B
 
論文タイトル:
Effects of a Hydrophilic/Hydrophobic Interface on Amyloid-β Peptides Studied by Molecular Dynamics Simulations and NMR Experiments
(分子動力学シミュレーションとNMR実験により調べたアミロイドβペプチドに対する親水性/疎水性界面の影響)
 
著者:
伊藤 暁  (自然科学研究機構分子科学研究所/生命創成探究センター 助教)
矢木 真穂 (自然科学研究機構生命創成探究センター/分子科学研究所 助教)
加藤 晃一 (自然科学研究機構生命創成探究センター/分子科学研究所 教授)
奥村 久士 (自然科学研究機構生命創成探究センター/分子科学研究所 准教授)
 
オンライン公開日: 2018 年12 月13 日(金)
 
DOI: 10.1021/acs.jpcb.8b11609
 

研究グループ

自然科学研究機構生命創成探究センター/分子科学研究所 奥村グループ
奥村久士、伊藤暁
自然科学研究機構生命創成探究センター/分子科学研究所 加藤グループ
加藤晃一、矢木真穂
 

研究サポート

科学研究費補助金 JP24740296 (伊藤暁)
科学研究費補助金 JP17K15441 (矢木真穂)
科学研究費補助金 JP25102001, JP25102008 (加藤晃一)
科学研究費補助金 JP26102550 (奥村久士)
岡崎オリオンプロジェクト (加藤晃一、奥村久士)
 

発表機関

自然科学研究機構生命創成探究センター
自然科学研究機構分子科学研究所

 

お問い合わせ

研究に関するお問い合わせ先
自然科学研究機構生命創成探究センター/分子科学研究所
准教授 奥村 久士(おくむら ひさし)
TEL:0564-55-7277    FAX:0564-55-7025
E-mail:hokumura[at]ims.ac.jp
 
報道に関するお問い合わせ先
自然科学研究機構生命創成探究センター 広報担当
TEL:0564-59-5504    FAX:0564-59-5226
E-mail: press[at]excells.orion.ac.jp
 
自然科学研究機構分子科学研究所 研究力強化戦略室 広報担当
TEL:0564-55-7209    FAX:0564-55-7374
E-mail: press[at]ims.ac.jp
 
※メールアドレスは@を[at]と記載しています。

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